コラム「農民画に恋して」

 

土の香りのモダンアート  (上海)金山農民画

 

 農民画と呼ばれる絵をご存じですか?素朴なタッチと色使いの鮮やかさが、描かれている人物や動物を愛らしくひきたてる非常にポップな絵。同時に、見る者に郷愁を感じさせる土の香りがします。

 1枚1枚手描きされるこの絵は、文字通り今もたくさんの農民たちが農作業の合間に筆をとっています。色とりどりの絵の中では、農民たちが楽しそうに農作業する様子、子供たちが遊んでいる姿、お正月の祝いの準備をする家庭の様子など、農村での日常の風景が季節感・生活感豊かに表現されています。絵本好きにはたまらない絵です。

 2007年には上海市政府より無形文化遺産として認定されました。海外へも発信できる豊かな中国の文化のひとつとしての役割を期待されていますが、心無い者により偽品が観光地で売られていることも見受けられます。親から子へと代々受け継がれる中で花開いたこの素晴らしい民間芸術を守り育てている金山農民画院の方々とタイアップし、この度日本農民画協会を設立しました。農民画という文化を通した日中交流の可能性を拡げてゆきたいです。

(ヒラノリエ)

 

 

農民画の歴史

 

 農民画の歴史は意外にまだ新しいのです。

 1970年後半のこと。政府の文化部より金山の農村に派遣された美術指導員は、ある農家を訪れた際に、その台所にあった かまどに目を留めました。当時かまどの壁には、その家の奥さんたちが思い思いに自分の好きな絵を描いていたそうです。その素朴な絵の中に、美術的センスの良さを感じとった指導員は、他にも農民たちの生活の中に代々伝えられていた刺繍・染布・木彫り・陶芸などといった、生活に密着した芸術品にも感銘をうけ、それらを‘一枚の絵’という形態に集結することを思いたちました。古き良きオールディーズが新しい手法によりよみがえりました。農民画はこうして誕生したのです。絵の持つ、レトロでありながらモダンな独特な印象はこの成り立ちからきているのですね。

 さて、写真のかまど。こちらは私が撮影しました。農民画の郷ひと目見たさに初めて金山を訪れた時、これが農民画のルーツであると聞いて大変な感激でした。更には、このかまどは展示用ではなく、今も実際に火を入れられ料理につかわれているというのです。中国版のスローライフここにあり。

 次回はこのかまどの持ち主で、すぐ脇のアトリエで絵を描いている農民画師、陸さんを取材した内容をお話します。

(ヒラノリエ)

 

 

 

 

画師、陸さんへのインタビュー

 

今でも古いかまどを使い続けている農民画の画師、陸永忠さんにその理由を伺いました。

 
 「画画。不能離開生活。」
 描くこと。それは自分の生活観と切り離せない。
 
 天があり、地があり、そして農業がある。その自然の恵みに感謝し、素直に日ごとの生活をいとなむ。陸さんはそんなシンプルな農村の生活に’美’を感じているそうです。
 農民たちの視点で風景や物事を見る時、その時はじめて活き活きとした絵がかけると話してくれました。“かまど”を使うのも、そのシンプルな生活を思い起こすためだそうです。
 
 「その視点を持っていると、外見がとても現代的なものを見る時でさえ、形にとらわれない普遍が見えるよ。」
 
 あふれるようにお話してくださった陸さんは、農民画師として成功して久しく、今では海外から度々展示会の依頼を受けるほど。それでもどんなに絵で忙しくなってもご自分の畑の桃づくりはやめないとおっしゃいます。
 
 絵描きとしての考え方のみならず、生き方にも通じる素敵なメッセージでした。
  
 
 
                                         (ヒラノリエ)
 

 

”老”を愛する陸さん。お気に入りの手織りの布と。

 

 

  

文化 Bunka ブンチャッ チャ  

 

  このページを訪れてくださっているあなたは、少なからず農民画に好意をもっている方でしょうか。では質問です。なぜ好きですか?

 可愛いから。 色がきれいだから。 懐かしい感じがするから。

 私は展示会などで絵を熱心に見てくださっている方に、よくこの質問をします。答えを聞きたいというより、その方の内面に少し触れることができるから。そしてたいていの場合happyスマイルに出会うことができるから。

 農民画は、日常を、生活を愛している人の視点で描くので、それが絵を見る人の心にも働きかけhappyな気持ちになる、そんな絵だと私は思います。

 ”文化”とは、コトバは少し堅苦しいけれど、結局日常を愛する心を紡いで織った布のようなもの。毎日は同じようなことの繰り返し。でもそこにはたくさんの贈り物があり、もしそれに気付きさえすれば、happyはすでに手の内にあるということがわかります。

 農民画は絵そのものが文化です。どうか絵の中のたくさんのhappyを見つけてください。

 昔読んだ本の中で、村上春樹は日常のルーティンワークのことを”文化的雪かき”と称していました。文化的であるのなら、雪かきだってまた楽しからずや。

(ヒラノリエ)

 

  

 

 

また楽しからずや  

 

    ここ半年ほど胸がもやもやしていました。

  何でもそうなのでしょうが、好きなものも近づくと自分が見ようと思っていないもの、

  見たくなかったものも見えてきたりします。 ただ、そのがっかりから来るもやもやを

  感じている自分の価値観がどのくらい正当なものなのかはわかりませんし、自分

  が得ている情報が全体の何パーセントなのかだって計れません。

  無邪気な心で出会った農民画は、思いもよらず私にいろいろな問題を出し続けて

  います。

  まぁ、気楽に湧いてくる気持ちを大切にしよう。 そう考えることにします。

  農民画に出会って、弦が一本増えた楽器のように、音色が豊かになっているのは

  確かなのですから。

 

    そんな揺らぎを楽しむ私に、最近東方より訪問者がありました。

  いつか会えたらいいな、と思っていた彼女とこんなに早く会えるとは。

  彼女の話してくれた話の中にはたくさんの響く言葉がありました。

  本当に嬉しい交流でした。 感謝!

 

 

     朋あり、遠方より来る。 亦楽しからずや。

     人知らず、而して慍らず。 また君子ならずや。

                                              (ヒラノリエ)

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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